雨の日のくじらコーヒー

好きなことをぽつりぽつり。

お湯につかれば

 日本に生まれ育ってよかったと思うことの一つに風呂文化がある。
もともとお風呂が大好きで、実家にいる頃はあまりにも長風呂をするので、風呂でおぼれているのではないかと母が心配してのぞきにくるくらいだった。
 
 だから、転職と共に移住して、でも給料が思っていた以上に低くて、安い家賃のアパートに引っ越しをした時、自分が内覧をした時には想像しきれなかったくらい、ユニットバスの浴槽が小さすぎて、まったく風呂に入れる環境ではなかった時にはものすごいショックを受けた。まもなく40歳になろうかという頃に住んだそのアパートは人生初のユニットバスで、割と女性の中でも小柄なはずの私でさえ、シャワーを浴びる時ですら壁に腕が当たりまくるという狭さだった。
 毎日シャワーだけの生活。全然リラックスできない。
 たまに実家に帰省したり、旅行や出張に出かけた時に、たとえそれがビジネスホテルのユニットバスであっても、自宅の激狭バスタブの1.5倍はあるわけで、いそいそとバスタブにお湯を溜め、事前に買っておいた入浴剤を入れて長風呂をするのが楽しみだった。


   今は幸いなことに転居して、セパレートタイプの賃貸マンションに住み、お風呂ストレスは解消された。
 とは言っても、普通に結婚生活をしている同年代には考えられないかもしれないけれど、一人暮らしのアラフォーは日常はシャワーだけで済ませることがけっこうあると思う。毎日風呂に入りましょうと言われても、バスタブいっぱいにお湯を溜めるとけっこうな水道代とガス代の出費になる。家族がいればそれで割に合うかもしれないけれど、一人暮らしの(しかも非正規雇用)お財布にはこの出費はバカにならない。
 だからこそ、お風呂タイムは大切にしたくなる。週に2回程度、週末だけ楽しむ長時間入浴タイム。
 好きな入浴剤を買いそろえておいて、その中から今日の気分に合うものを選ぶ。お湯を溜めている途中で頃合いを見て入浴剤を投入。お湯はりアラームがピピッと教えてくれたら、そそくさと服を脱ぎ、浴室のドアを開けてもわぁっとする湯気の中に入って深呼吸。まずは喉を無意味に湿らせて、洗面器にお湯を汲んでざばぁっとかかり湯。一人暮らしなんで、先に体を洗いましょうとかいうルールは無視。
 いそいそとお湯に身を沈めた瞬間、つい「うぁはぁぁぁ」とおっさんぽい声をあげてしまったことはすぐに忘れる。天井を眺めながら、もう一息「はぁぁぁ♡」と今度は女子らしいため息なんぞをついてみる。


 ああ、書いているだけで風呂に入りたくなってきた。


 故郷は地味に温泉が多くて、ドライブついでに山間の公共銭湯に行き、昼間から誰もいない寝そべりながら入れる露天風呂で空を眺めるというぜいたくな時間を700円くらいで楽しんでいた。思えば本当にぜいたくな時間だったと思う。
 
 そこそこの都会に移住した今、そういった気楽に楽しめる温泉は近くにはなくなってしまった。なんとも思わずに当たり前のように楽しんでいたものが、実はものすごく貴重だったことに気付くのはいつも大体後になってから。
 今目の前にあるものを貴重だと思い、慈しみ、心から感謝しながら楽しめるような大人になりたいものです。